壁越しの二人
神無月町にある、とあるアパートにて知り合った大島高校2年生の野嶋(のじま)志(し)継(のぶ)と原高校2年生の水原(みずはら)由(よし)雄(お)。
二人は、お互いに陸上部ということ以外は素性を詳しく知らなかったはずが、壁越しに聞こえてくる声でお互いの深い事情を知ることになる。
二人のそんな不思議な関係が日常になる頃、志継の身の回りに不幸が起こる。それについて深く傷ついた志継は、自分の殻に閉じ込もうとする。
そんな時、志継の様子を見かねて友人である華(か)菜(な)と由(ゆ)梨(り)が由雄の元へ現れ、志継を助けてほしいと懇願する。
由雄の説得により、何とか立ち直ることが出来た志継だが、心の奥底は未だ悲しみで埋もれていた。
そんな折、彼女の前に現れたのが由雄の事をひたすらに想う日向(ひなた)志穂(しほ)だった。
志穂は、由雄のもう一人の友人である神楽坂(かぐらざか)茂(しげる)と共に、駅伝出場を懸けた記録会へと顔を出す。
しかし、そこで由雄が転倒するという事態に。その現場を見た志継の様子が急変し、会場から姿を消してしまう。
訝しげに感じた志穂は、志継の口から洩れた「沙緒里先輩」について教えてほしい、と華菜たちに頼む。
二人の口から語られた真実は、志継の想い人である伊達(だて)望(のぞむ)、
その恋人である二階堂沙(にかいどうさ)緒里(おり)の両名の死から始まっていると告げられ、
志継の心の闇が浮き彫りになる。真実を知った志穂は走り出す。想い人の笑顔を守るために。
二人の少女の葛藤の周りで、多くの人が迷い苦しみながらも前に進もうとした。
恋だと素直に言えない。諦めたいと素直に言えない。相手の気持ちに、素直に「ありがとう」と言えない。
そんな彼と彼女らの想いを繋げたのは、心の中にある「襷(たすき)」と「壁」だった。
当たり前の日常を手に入れるために、ただひたすらに前へ進んだ。
ちっぽけかもしれないけど、みんなが最後に気付いたのは「ひとりじゃない」という大切なことだった
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Author:縛種桃源郷
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